kakinagu-l

主にプレイしたゲームの感想を備忘録的に書き殴ります。ネタバレに配慮ありません。

剣が君 百夜綴り 感想メモ2(菖蒲の書(過去編)、梅の書(過去編))

感想メモ1からの続きです。
各個人の書アフターはとっておきたいなあという考えの下、過去編からやることに。
メモの割に長い。

菖蒲の書 第六編、第七編

実彰さんの過去話。切支丹狩りで孤児になった実彰さんが、いかにして人斬りになり、そして剣を捨てようと決心するに至ったか、という話でした。

実彰ルート幸魂時空ですね。

幼少期~奉公先から叩き出されるあたりは、本編でも語られていたことなので、「うむ」と思いながら見ていました。
やはり台詞で説明されるのと、ストーリー・演出付きとじゃ説得力が違いますよね。

切支丹な実彰さんが人斬りに転落していく様は、まさに貧すれば鈍すというか、多分、あそこまで突き抜けた剣の才があったことが彼の不幸だったのでしょうね。

まあ、剣の才がなければないで、切支丹実彰さんには耐え難いであろう生き方をしなくてはならなくなった可能性もあるわけですが。

それに、香夜ちゃんとの出会いも彼の剣の才によるところですから、どっちもどっちというところでしょうか。

三度一番刀になった、というのを本編で言われていたときは、立て続けに御前試合に出たのかと思っていましたけど、結構間が空いてたみたいですね。
しかも目的が売名というか営業(人斬りの)という。そのすさんだ感じがいかにも人斬り実彰さんっぽい。

私は実彰さんと縁さんの組み合わせが好きなので、彼らの出会いを描いてもらえて嬉しかったです。

そして実彰さんが剣を捨てようと決心する事件が起こるわけですが、何と言うのか、剣士としての実彰さんは、心技体のうち、心が未熟だったのだろうなと思います。
縁さんも……というか「剣が君」に限らず乙女ゲームの攻略対象は、みんな多かれ少なかれそんな感じではありますが(でないと主人公ちゃんの付け入る隙がない)(まだ乙女ゲー3作しかプレイしてないのにそんなことを言う)、実彰さんの弱さは「自分のしていることの意味を理解していない」という点だったのではないでしょうか。
その事件で我に返るまでは、強さとして機能していたのでしょうが、気付いてしまったので一気に裏返って弱さとなってしまったのではないかと。そういう脆さも含めて、実彰さんは意外とメンタル弱いですよね。

心が伴っていないのに剣聖の称号を与えられるほど剣に秀でるというところに、強烈な皮肉と実彰さんの生まれ持った才能の凄まじさを感じる……

あと、実彰さんがやたらと東北に行きたがってたのは、九十九丸父の失踪の噂を聞いたかららしい。
自分も消え去りたい……というその動機はともかく。

えっ、何なのこの意外な繋がり……

梅の書 第六編、第七編

縁さんの幼少期から水戸城御前試合、そしていかにして縁さんが遊び人で公儀隠密で家光公の養子という盛り盛りな立場になったのかという話。

縁ルート荒魂時空かな。

読んでてものすごくきつかった。
八百長御前試合の下りとかは本編でもある程度演出ありで語られてたのに、「説得力が違うなあ」とか余裕かましていられませんでした。

自分でも縁さんに感情移入しすぎてどうかと思うんですけど、本当に呼吸が苦しくなるほど、肺腑が抉られるような苦しい話でした。

ちびっこ縁さんが、またかわいいんですよ。長じて身の丈六尺越えの大男(イスパニアハーフの実彰さんより大きいという)になるとは思えない、女の子みたいな見た目で、性格も真面目で一生懸命で素直で兄思いなよい子です。

病弱な辰影兄上とのやり取りが健気で、微笑ましくて、大変かわいらしい。辰影さんの方では、我が身と比べて思うところがあったかも知れませんが、それでもすごくいい兄弟だったんだなと思えました。
大名家の長男・次男だと思うと余計に。

それだけに、御前試合以降のきつさが際立ちます。
縁さんは他の皆さんみたいに親兄弟を亡くしたわけではありませんが、八百長を仕組まれるという手酷い裏切りを受けてる。辰影さんは八百長に加担したわけではなく、気づいても、阻止することも縁さんに伝えることもできず傍観せざるを得なかっただけですが。父親に逆らえないし、病弱なせいで周囲への影響力が弱いという点でやむを得ないんですけどね。

裏切りは、見方によっては死別よりつらいことでしょう。
縁さんがこれまで信じてきたものの土台を失い、同時に積み上げてきた己への自信を喪失し、それでも全てを飲み込んだまま前を向くふりをし続けなくてはならない――自分の言動に水戸家そのものの存廃がかかっているから。

統治者としては必要な技術かも知れませんが、指針とすべき信念を、信じていた人達の手で叩き折られた直後の18歳に求めるべきことですかね。

それにしても、本編の感想でも書きましたが、水戸藩の手抜かりが酷すぎる。
(信念を持って)八百長仕組むなら仕組むで、ちゃんと最初から最後まで舞台と役者をコントロールしろよ!?
いや、最後まで、では足りませんね。未来永劫(くらいの心構えで)やり通して欲しい。
決勝の相手が決着後、縁さんに八百長匂わす発言するとか、あまりにも教育がなってなさすぎじゃろう……負け方もヘッタクソだったみたいですし。

その後、真相を言うことも出来ず家光公の養子になる縁さん。主と認められなければ鞘から抜くことも出来ないという三日月宗近を授かります。偽の一番刀である自分には抜けないはず、と恐れと期待を持って縁さんは抜刀を試み、……抜刀出来てしまいます。

八百長に加えて家光公の養子、時期将軍候補という立場、抜刀は出来るのに、どれだけ努力しても神降ろしのしるしは引き出せない三日月宗近。縁さんを引きずり下ろしたい人はたくさんいて、影響力を考えれば、弱音を吐くことすら自分の一存では出来ない。

家光公と三日月宗近が何を思って縁さんを認めたのかは語られませんが、これだけそろうと、縁さん潰そうとしてんの……? とすら思えてくる。
いや、そんなことはないって分かってますよ。

家光公も、縁さんが三日月宗近を使いこなせず苦しんでるところに、あっさり他の五剣を使いこなして颯爽と縁さん主従のピンチを救ったりするもんですから。

まあ、家光公がそうした理由も分かります。命大事。超大事。

でも、もういっぱいいっぱいだった縁さんが破裂してしまう、致命的な一針だったということも、分かります。

身分があるがゆえに、そして本来の真面目さゆえに、何一つ自ら選ぶことが出来なかった縁さんが、ようやく「自分勝手」を出来たのが、あのちゃらんぽらん縁さんという逃げ道を作ることだったんですね。
……まあ、逃げは逃げなんですけど、それすら自分自身を痛めつけている感があるのが……つらい……

三日月宗近は、待ってたんだろうなと思います。
縁さんが自分自身をちゃんと信じられるようになるのを。
縁さんは三日月宗近のことを「俺には過ぎた刀」と言っていましたが、宗近が求めていたのはそういうナチュラルに卑屈な縁さんじゃなかったんでしょう。
だから、縁さんが神降ろし出来たのは、香夜ちゃんが一緒に頑張ってくれた荒魂エンドだけだったのだと思います。
香夜ちゃんを通してしか自分自身を信じ切れない縁さん。そんな風にしてしまった水戸藩の罪は重い……水戸の人間が、ほんと申し訳ない、縁さん……

あと、天下五剣の扱いって、努力とか技術とか心構えとかより、生来の適性が問われると思う。
鈴懸を見てると、本当にそう思う。
何せ剣聖ですら、神降ろし出来たの実彰奇魂エンドだけですからねー。(実彰さんは大典太使うこと自体が少なかったからともいう)

だから縁さんもそんなに思い詰めなくていいと思うんだよな。
……それが出来ないからこその縁さんなんだけども。
 
ああ、やっぱり本編に次期将軍エンドほしかったなあ……